2026年度春学期メディアコム公開講座「ファクトチェック、なにしてる? ~フェイク対策の現場から~」開催報告

2026-07-30

慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所は、2026年6月15日、三田キャンパス北館ホールにて、春学期公開講座を開催しました。

講座では、同研究所の修了生であり、新聞社やネットメディアを経て、現在はNHK報道局 機動展開プロジェクト記者としてデジタル調査報道の最前線に立つ籏智広太氏が、「ファクトチェック、なにしてる? ~フェイク対策の現場から~」というテーマで講演しました。当日は、塾生、社会人、高校生ら約90名が参加しました。

籏智氏は、今やタイムライン上に偽誤情報を見ない日はないと語り、フェイクニュースがネット上の噂話に留まらず、ワクチン接種会場の妨害や特定のマイノリティへのヘイトクライムなど、現実社会に深刻な影響を及ぼしている現状に警鐘を鳴らしました。

偽誤情報が拡散する背景について、籏智氏はSNSのエンゲージメントや再生数による「収益」、選挙などをめぐる「政治的目的」、このほか、「善意の拡散や愉快犯」という主に3つの目的があると説明しました。SNSのアルゴリズムは個人の信じたい情報を強化し、少数のアカウントによる発信が、あたかも社会全体の総意であるかのように錯覚させる構造を生み出している実態を解説しました。

こうした問題に対し、籏智氏はジャーナリズムを担うメディアがファクトチェックにしっかり取り組むことが重要であると述べ、事後検証の「デバンキング」や事前に事実関係を整理・検証する「プレバンキング」について説明しました。偽情報が広がる前に注意を呼びかけるプレバンキングは、予防接種の役割を担い、より有効であるといいます。

生成AIの普及により、偽動画の判別がますます困難になっている状況において、籏智氏は「確認コストは膨大だが、誰かがやらなければ広がり続けてしまう」とメディアの社会的責任を強調しました。一方で、私たちユーザーに対しては、情報にはパターンがあり、偽情報のすべてが悪意によるものではなく、善意の拡散や勘違いによるものも含まれることを意識すべきであると説きました。

ファクトチェック記事を書く際の工夫として、まず真実を伝え、次に偽情報の内容を説明し、最後にもう一度真実で締める「真実のサンドイッチ」という手法が紹介されました。これは、読者が誤った情報のほうを記憶してしまう副作用を防ぐための技術です。また、検索結果に正しい情報が表示されるよう、読者が検索しそうなキーワードを見出しなどに盛り込む工夫もしているといいます。

最後の質疑では、ファクトチェック記事のターゲットや、メディア間の相互監視の理想と現実、AIに正しく認知されるための記事構成など、多岐にわたる質問が相次ぎました。籏智氏は、情報空間の最前線で感じている手応えと課題を率直に語りました。

次回のメディア・コミュニケーション研究所公開講座は、2026年度秋学期に日吉キャンパスで開催予定です。

「ファクトチェック、なにしてる」
「ファクトチェック、なにしてる」
「ファクトチェック、なにしてる」
「ファクトチェック、なにしてる」
撮影:竹松明季